Money Connection

  • のべ実施高校数

    1503

  • のべ参加生徒数

    186380

  • ファシリテーター数

    75

※2024年6月末時点

「お金」を切り口にして、どう生きていくかを考える

#先生  #インタビュー  #全日制  #2年生  #出張授業  #クラス単位で実施 
川澄 正幸 教諭
都立青井高等学校で2学年の担任を受け持っているほか、学年の進路指導を担当。
30年以上のキャリアを持つベテラン教諭で、青井高等学校には昨年から赴任。
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プログラムを通して、「お金」を切り口に
どう生きていくかを考える入り口を作る

青井高等学校がMoneyConnection®を最初に導入したのは、2013年ということですが。
そうです。2013年に初めて導入し、以後、2014年~2019年まで東京都教育庁委託『都立高校生の社会的・職業的自立支援教育プログラム事業』の一環でMoneyConnection®を継続して実施してきました。2年生の「キャリアデザイン」の授業、いわゆる『総合的な学習の時間』の枠組みの中で活用しています。
実は私が本校に赴任してきたのは昨年度からなのですが、前任校の『総合的な学習の時間』でもMoneyConnection®を活用していた経験があります。
MoneyConnection®を実施する目的は?
前任校も本校も、生徒の家庭の生活実態がかなり厳しいという状況があり、プログラムの内容が彼らにとって切実な問題としてあるということを日々実感しています。ですから、実施する一番の目的は、そこですね。
どうしてもお金の問題で進学などを考える際に高いハードルになる。特に2年生にとっては、これから進路相談が具体的に始まるなかで、どうしても避けては通れない話です。
そうしたことを意識させるためにも、こうしたプログラムを取り入れるのは一つの手段かなと思って導入しています。

キャリアデザインの授業として、2年次でわれわれが特に強調しているのは、「将来、誰もが働く人間として社会に参加していく」ということです。
大学や専門学校に進むとしても、長い目で見れば、そこを出たときに社会人となって働くわけですから。長いスパンで将来を見通して進路を選択しようと。その中で特に「お金」を切り口にして、大げさに言うと、自分がどういうふうに生きていくかということを考える入り口を作ろうと。そこがこのプログラムを実施する意義だと思っています。
インタビューに答えていただいた川澄先生
卒業後の進路と課題について教えていただけますか?
例年、大学、専門学校、就職がそれぞれ1/3程度という割合です。
1/3は就職ですが、就職活動も厳しい。そこをがんばって就職指導に乗ってくる覚悟を作るというのも、重要な課題だと思っています。正社員の求人もたくさん来ますが、たとえばその中で女子の事務職となると、普通科の高校は求人が少ないのが現状で、商業高校さんとの競争でも負けてしまう。
また、現在は求人票が多く来ますので、粘り強くやれば就職は可能なんですが、じゃあ実際に正社員で入っても、そこでその仕事がしっかり続くかというのもまた課題なんです。
MoneyConnection®を最初に知ったときのプログラムの印象をお聞かせください。
実際に口にはしなくても、生活実態が非常に厳しいということを感じている生徒がいる。とはいえ、生涯にかかるお金とか収入支出について、ざっくりとでさえよくわかっていません。そういう生徒たちに対して、MoneyConnection®は入り口の段階で、わりとスパッと具体的な金額が出てきますよね。そこがこのプログラムの特徴かなと思いました。
実は、われわれ教員がやりにくい部分というか、なかなかスパッと言えない部分を、ある意味単純にパンッと金額を出してもらえる。ああいうのは、入り口として非常にいいんじゃないかなと思いますね。そういう意味では、このプログラムは本校にぴったりマッチすると感じています。
東京都の自立支援教育プログラムの中でこちらを選ばれたということですが、たくさんプログラムがある中で、MoneyConnection®を選んだ理由は?
単発のプログラムが多いなかで、育て上げネットさんのプログラムは、金銭基礎教育プログラムのMoneyConnection®に加えて、キャリア教育プログラムの「ライフコネクション」と「モバイルコネクション」など、いくつかの関連したプログラムと併せてお願いできるところが魅力でした。
私がお願いするときは、だいたいいつも3つのプログラムを連続してやっていただくんです。
週に1回でも、3回連続してやっていただくとほぼ1カ月になりますから、われわれとしても授業の展開が組みやすいんです。
都立青井高校の校舎

いきなりのカードに生徒はワクワク。
家賃や食費、税金の高さに素直な驚きも

実施しているときの生徒たちの反応はいかがでしたか?
授業の導入でいきなりカードが配られますよね。ふだんの授業ではやらない形式ですから、まずそこで生徒たちは「なんだろう?」という具合に興味を持った様子でした。カードゲームが始まるようなワクワク感があるんだと思います。そこからいきなりお金の話にズバッと切り込むので、非常に食いつきがいいという印象でしたね。プログラムの流れが非常に面白いと思いました。
たぶん、最初からずっと講義のように話が続いたら寝ちゃうんでしょうけれど、どのクラスもワイワイと楽しんでました。しらけちゃうような生徒もほとんどいませんでしたし、ふだんの授業では寝ちゃっているような生徒も、グループワークということもあって楽しく参加していました。
お金に関する内容については、どのような反応でしたか?
彼らは、知っているようで知らないことが多いんです。たとえば家賃とか。たいがい相場よりもかなり安い家賃を書きます。それで、東京の家賃を聞いてびっくりしていましたね。食費なんかも、おそろしく少ない額を書きます。
あとは、税金も含め、社会保障のところですね。生徒たちが思い描いていたものとかなり違う額が出てくるので、社会の相場に気づいてその高さに驚くというところが授業の最初の山という感じで、面白いところじゃないでしょうか。
プログラムの実施風景
プログラムを通して印象に残ったことは何ですか?
個人的にいちばん印象に残っているのは、生徒たちの金銭感覚と、社会的な金銭感覚とのギャップがあまりにも大きいというところ。プログラムをやっていくなかで、1人で生活するためにはこれくらい収入が必要なんだっていうことに気づくわけなんですが、たしかに高校2年生の段階で、1人暮らしでいくらかかるかなんて、今まで突き詰めて考えたことがないでしょうから。
本校の場合は卒業後、1人暮らしをしたいという生徒は実はそれほど多くはないんです。
前任校もそうなんですが、下町地域はわりと地元志向が強く、家から出たくないという子が多いんですね。就職にしろ、進学にしろ、家から通えるところというのが第一なんですよね。そうはいっても1人暮らしをする可能性もかなりあるわけで、そうなったときにどうしよう…というのでは困るので。
川澄先生へのインタビュー
先生ご自身は、実施前と実施後でプログラムに関する印象は変わりましたか?
こちらが思った以上に生徒たちが積極的に参加していたことが驚きでしたね。僕の意識としては、高校生はこういうカードゲームみたいなものには乗ってこないものと思っていました。しらけてやらない生徒が半分くらいいるんじゃないかと思ったんですが、それがなかった。こんなに素直にやるんだ、というのが一番の驚きでした。
高校生ぐらいになると、多少、知ったかぶりをしたり、「そんなの知ってるよ」というような反応をすると思うんですが、プログラムを受けているときは、すごくストレートに、知らないことは知らないと表現していました。
知らない大人が来て授業をしてくれてという、我々が授業をやっているときとは違う雰囲気があるので、だから素直に受け入れることができるのかもしれません。

6月に実施するプログラムの体験を
その後の進路指導で活かしていく

MoneyConnection®を今後の指導にどう活かしていきたいと考えていらっしゃいますか?
プログラムの実施は6月で、進路指導を始める直前のタイミング。夏には、上級学校のオープンキャンパスに行きましょうという宿題を出すので、そうした活動のちょうど直前です。
このあと進路選択についていろいろ話をしていくときに、MoneyConnection®の体験が生きてくると思うんですよ。
たとえば「専門学校に行きたいと言っているけれども、じゃあ、その学校の選択で大丈夫なのか」というような感じですね。
専門学校というと、動物のトリマーやネイリストをめざす学校を志望する生徒が多いんです。けれど僕ら教員は、まず「それで大丈夫?」と聞くんです。そのときに、たとえば収入の問題などを話すうえで、このプログラムで経験した内容をからめて話せるんじゃないかと思っています。
1人前の人間として生きるための収入と支出という、基本的な考え方がプログラムにあるので、そこを思い出させて、「こういう生活をしたいなら、こういう収入が必要だよね。だったらこの職業選択で大丈夫?」という問いかけに発展させることができる。今後は、そういう形で進路指導に活用していきたい。MoneyConnection®を通じて、そのきっかけをもらったなと感じています。

一方で、私の受け持ちである社会科の授業との関係でもいろいろできるかなと思っています。政治経済では「労働」の問題も扱いますし、「税金」「社会保障」もあります。たとえば、なぜいま年金が問題になっているのかという点を膨らませて説明するのには、MoneyConnection®が非常にいい入り口になってくれると感じています。
授業中の川澄先生
大学への進学を考えている生徒にとっても、実は就職活動はそんなに遠い話じゃないですよね。
大学進学を考えている生徒も、このプログラムで収入や支出について考えた経験は、頭のどこかに残っていてほしいですよね。いまは大学に入るとすぐに就職活動が始まるようなものですから、ある意味、どの進路選択をするにしろ、全員がこの時期に自分の将来を考え始めることが大事なのかなと思っています。
特に、働くとはどういうものか、正社員とはどういうものかということを学ぶ意味もあると思うんです。結果として、就職した先の会社に定着できれば非常にいいのですが、現実問題、どの会社さんも定着率は高くありません。しかし、たとえ転職することになったしても、いちどは正社員になる努力をすることは価値があると考えています。
先生ご自身は、このプログラムを実施したあとで意識が変わったということはありますか?
困ったときに、どういう公的機関があるのかというのは、僕自身も勉強になりました。そのへんのことを授業で話す機会があれば伝えるようにしています。
先ほども言いましたが、社会科の教員としては、政治経済で「労働」の問題や「税金」「社会保障」なども扱いますので、うまく授業に活かしていくこともできるんじゃないかと考えています。
生徒に話しかける川澄先生

ファシリテーターがぐいぐい引っ張り
速い授業のペースが生徒には新鮮に

最後に、全体の感想やご意見があればお聞かせください。
ファシリテーターの方には、ぐいぐい引っ張ってもらっているのでありがたいですね。ファシリテーター2名と教員の計3名くらいで、普段の授業の2倍くらいのペースで、とにかくお尻を押しながらやるので、生徒たちはそのペースも新鮮に感じられるのかもしれません。
時間については、50分の1限を使って実施しているのですが、70分ぐらい使えたらいいのになあと感じています。
ファシリテーターの方がさまざまな経歴をお持ちなので、その経験を話していただく時間は貴重だと思うんです。教員以外の大人の話を聞く機会は少ないのですし、生徒にも何かのヒントになるのではないかと。70分くらい使えれば、最後のまとめの時間に、ご自分の経験などをゆっくり話していただくことができます。そうすれば、より彼らの中にストンと落ちるかなと思います。
廊下を歩く
若い先生がこういうプログラムを生徒と一緒にやるのはとてもいいと思っています。若い世代の教員が大量に採用されている時代なので、20代、30代の先生が多いんです。うちの学年も半分は20代、30代ですから。本校にも、今は独身でこれから結婚を控えている先生が多いので、そうした若い先生たちは、生涯これくらいお金がかかるという話を切実な問題として聞いていますよ(笑)。
そういう意味では、若い先生たちと一緒にこういうプログラムをやるのは楽しいですね。若い先生たちの反応が楽しいんです。非常に新鮮な感じで取り組んでいますよ。
ありがとうございました。

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