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スペシャル
対談
学習指導要領の改訂で
学びはどう変わる?
学習指導要領の改訂を受け、学校教育は大きな変化の時期を迎えています。
今後の学びはどう変わるのか?学校現場が抱える課題は?
若者の教育に深く関わる二人の対談から探っていきます。
認定特定非営利活動法人 育て上げネット
工藤 啓
同団体理事長。2001年、若者の就労支援を専門とする任意団体「育て上げネット」を設立。2004年にNPO法人化。金沢大学客員教授、東洋大学非常勤講師。内閣府・厚生労働省・文部科学省・東京都などの委員を歴任。著書に「大卒だって無職になる “はたらく”につまずく若者たち」(エンターブレイン)などがある。
文部科学省/国立教育政策研究所 総括研究官
長田 徹
石巻市立雄勝中学校教諭、仙台市教育委員会指導主事などを経て、2011年5月から文部科学省。現在、文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教科調査官、同児童生徒課/高校教育改革PT 生徒指導調査官。国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター 統括研究官、同教育課程研究センター 教育課程調査官。
工藤よく一つの世代をくくって、「○○世代」という呼び方をしますよね。今回、学習指導要領の改訂があって、その新たな教育を受けた子どもたちが15年か20年後に社会に出た時、どんな世代と呼ばれるようになるのか気になったのですが。
長田「アクティブ・ラーニング」という言葉がそのまま残っていれば、「アクティブ・ラーニング世代」になっているかもしれませんね。でも、「アクティブ」が「アクティビティ」と混同されることもあるので、分かりやすく日本語に開くと「主体的・対話的で深い学び世代」でしょうか。でも、これだと長くて微妙ですね。
工藤ある教育を受けた結果を判断する基準の一つは、社会に出た時だと思うんです。日本の場合は、社会というよりも労働市場に近いのかもしれませんが。新しい学習指導要領による教育課程を受けた子どもたちが労働市場に入ってきた時、どうなるのかなと。
改訂された学習指導要領では、社会や世界との関わりや、よりよい人生を送るためということが強調されていますが、これまでのキャリア教育って、実質的には職業教育に近いものが多かったですよね。政府が推し進めている「人生100年時代構想」をふまえ、子どもたちがよりよい人生を送るための教育を、先生方が大きなビジョンで考えていくのは、かなり難易度の高い業務だと思うんです。自分だったら何をするんだろうと思ってしまいますが。
長田そもそも学校教育の最終的なゴールは、目の前の子どもたちが社会的に自立していくことです。だから、入試に合格させることや問題なく卒業させることがゴールではないんですね。
この子たちに、どんな教育をして・どのように教えて・どんな力をつけた社会人にしたいのかといったゴールを見ずに指導をするというのは、やっぱり無理があると思いますよ。
工藤子どもたちを社会的に自立した存在にするために先生方がいろいろやってきても、結果的にうまくいかなかった時は、私たち「育て上げネット」がサポートしていて。自立できなかった原因は、もちろん学校教育の問題だけでなく、なんらかの事情があってうまくいかないことで、支援を受けに来る子たちはいるんですよね。
昔から、大人が理解できない若者が生まれるのは、学校教育が悪かったからだ・家庭や親がちゃんとしないからだと言われていますが、学校がすべてをできるわけではないし、家庭だけでも無理なんですよね。
今回の改訂でも、学校と社会や地域、家庭との連携や民間の活用などが謳われていますが、先生の立場から見ると、じゃあどうやってやるの?ということもあると思うんです。また、社会の側・地域の側からすると、学校からどんなことを期待されているのかなと。
私自身、学習指導要領を読んでも、何を期待されているのか分かりづらいなと思いまして。私たちは、学校のために何ができるのでしょうか?
長田なるほど。今までは学校側から地域や民間の方にして欲しいことをお願いする、ベクトルが学校側からでした。逆に民間の方が名刺を持って学校に入ろうとすると、警戒されることが多かったと思います。しかしそれが、この学習指導要領をきっかけに「協働」になるんです。
学校側からといった一方的なものではなく、目の前の子どもたちにどんな資質・能力を身につけさせたいのか、どんな社会人になって欲しいのかという理念を共有して、協働することになります。
学校の外の世界と直接つながっている先生は多くありません。でも、先生になる子どもは数%しかいません。ほとんどの子どもたちが巣立っていく学校外の社会の中では、どんな力が必要とされるのか?どんな課題や問題があるのか?どんな楽しさや素晴らしさがあるのか?といったことを伝えていくためには、双方向の関係、「協働」の関係になっていくことが不可欠だと思います。学校だけでできることには、限界があるんです。
ただ、今まで100年、学校は学校の中のことをやってきました。地域は地域のことを。家庭は家庭。企業は企業の中のことを。100年続いたものを一瞬にして変えることは難しいと思います。しかし、10年か15年くらいのスパンで地域や民間の方と学校が理念を共有し、協働して一緒に人づくりをしていくことが目標であり、それが開かれた教育なんです。
工藤民間との協働という部分で言うと、以前、高校の先生から「学校は公平中立な立場にあるので、企業の受け入れは慎重にならざるを得ない」というお話を聞いたことがあるんです。例えば、A社からの依頼を受けた後に、競合のB社から依頼されたら、断ることはとても難しいと。だったら、初めから依頼を受けないことが、学校として中立的な立場を守ることになるのではないか。そう考えると民間の受け入れは難しい部分があり、先生方も迷っているというお話でした。
また、民間の受け入れが難しいもう一つの理由として聞いたのは、昔から続けてきた取り組みが積み上がり過ぎているということです。例えば、その取り組みが時代に合なくなってきたと感じても、やめることができない。だから、新しいものを入れられない。「足すことにも、引くことにも抵抗がある」と言う先生もいらっしゃいました。
私たちは民間サイドからいろいろなご提案をして、いいところまでは行くのですが、あと一歩届かないことが多いんですね。だから、学習指導要領の改訂で明文化された言葉が、先生方の意思決定を助け、あと一歩の背中を押してくれることを期待しています。
ただ、地域や民間も連携のベクトルを持つと考えた時、その学校が何をしたいのかということや理念が、もっと明確になるといいと思うのですが。
長田そうなんです。例えば学校のホームページを見ても、理念に「自主」とか「連帯」「創造」とあるだけでは、この学校で何をしたいのか分からないですよね。だから、子どもたちや保護者に、この学校で学んだら何ができるようになるかが伝わるような言葉にしなければならないんです。
そのためにはどうすればいいか。私は先生方に「主語をつけて、語尾を上げたらそのまま質問できるような言葉で」とアドバイスしています。
例えば「共感的に相手の話を聞くことができる」という目標設定をしたら、子どもに「あなたは、共感的に相手の話を聞くことができる?」と質問することができますよね。また、保護者にも「この学校に通えばあなたのお子さんは、共感的に相手の話を聞くことができるようになります」と言えるんですよ。
これくらい具体化しないと外部の方に「こういうことをやって欲しい」というメッセージを送ることはできません。また、受け入れるかどうかを決める時の判断基準を持つこともできないんです。
工藤例えば、学校のビジョンや人材を育てるロードマップを紙にまとめ、それを使って子どもたちや保護者に繰り返し説明していくことも大切なのかもしれませんね。子どもたちや保護者に「いつもこの紙を使って説明しているよね」「もう覚えちゃった」と言われるまで繰り返すことで、共有の度合いが上がっていくのかなと思います。