家計の学びに取り入れたら、想像以上の発展した学びに

さいたま市立浦和高等学校

全日制2年生8クラスで実施1時限50分自主開催

お話をお聞きしました。
後藤 亜里紗 教諭
2006年よりさいたま市立浦和高校に在任。現在は、家庭基礎を担当するとともに、2年生の学級担任をしている。

進学校の市立浦和高校でも
働き方の多様化を踏まえて導入

さいたま市立浦和高校では2017年から継続してMoneyConnection®を実施していただいていますが、当初の導入のきっかけは何だったのでしょうか?

埼玉県では、夏休みに教職員対象の消費者セミナーというのを行っています。そこで、育て上げネットの担当者さんから指導を受け、MoneyConnection®を体験したのがきっかけです。
その際、「デジタルデータがほしい方はご連絡ください」ということでしたので、後からご連絡さしあげたところ、「講師を派遣するので、学校で実施してはいかがですか?」という提案をいただきました。そこでもう1人の家庭科教諭と相談して、一度試してみようということになり、出張授業をお願いすることになりました。それが2017年のことです。

市立浦和高校は、いわゆる「進路が多様な高校」とは違いますが、あえてそういった高校でこのMoneyConnection®を実施している理由は何でしょうか?

たしかに本校は進学校で、卒業後、ニートになってしまうような生徒はほとんどいません。ですから、副題に「ニート予防教育」とあるMoneyConnection®は、果たして本校に適切な教材なのだろうかと引っかかる部分はありました。卒業後は正社員として働く生徒が多く、国民年金だけの暮らしというプログラム設定にはマッチしないのではないか、という懸念もありました。
ただ、今は働き方も多様化してきましたから、もしかしたら、あえてフリーランスで働くことを選ぶ生徒もいるかもしれない。昔ながらの終身雇用といった働き方を、これからの子どもたちはしないかもしれない。また、20万円という設定は、大学で一人暮らしをする生徒たちにはちょうど合うのかもしれない。
そういった意味では、このプログラムは、本校の生徒たちにも非常に参考になるのではないかと考え、じゃあ、試してみようということになったのです。

家庭基礎の授業に組み込んでいるということですが、どのような位置づけで実施しているのでしょうか?

家計の費目を教えたり、可処分所得や非消費支出について学ぶ「家計」の導入にピッタリだと思ったので、2年次の「消費生活」分野の最初の授業に使わせていただいています。
日本では、お金の話をあまりしない家庭が多いと感じていて、実際、生徒たちに聞いてみても、親の収入がいくらか、1カ月の食費がいくらか、なんて知りません。ですから、生活費が20万円と言うと、お小遣いのイメージで全額自由に使えると考える。そうじゃないんだよというのを実感として身につけさせなきゃいけないなというのは、以前から問題点として感じていました。
年収が500万円といっても、そこからいろいろ引かれ、全部が自分のものにはならないですよね。でも、そのことを知らずに社会に出る人も多いと思うんです。年末調整のことや医療費を使いすぎたときの請求についてとか、ふるさと納税とか、そういうことも含めて教えておくべきだと考えています。
一通り学んでおけば、必要になったときに「そういえば高校の授業でやったな」と思い出してくれるかもしれないですし、インターネットでの情報検索もしやすいと思うんですよね。

MoneyConnection®を実施するメリットをどのようにお考えですか?

実は、お金の話というのは教員として扱いにくいテーマなんです。家庭の水準もいろいろですし、「これが標準の収入です」とはなかなか言いづらい。親御さんも定職に就いているとは限りません。かつてのような「夫婦と子どもふたり」という標準世帯の話をしても、生徒が「うちとは違うな」と距離を置いてしまうこともあります。そのうえ「この中の非消費支出はどことどこで、いくらになりますか?」などと座学でやっても、つまらない授業になる。それで毎年、どうやって授業をしようか悩んでいたところを、このMoneyConnection®がカバーしてくれるので助かっています。
プログラムの「生活費20万円」という設定は、将来、自分が一人暮らしをしたときを想像させると、費目の内容が頭に入って来やすいのかなと思います。「食費はゼロにできないよ」といったことを伝えると、「1カ月1万円生活って無理なんだあ」って(笑)。
彼らの感覚があまりに現実と乖離していることには驚かされますが、プログラムを通して実態に気づくことができているような気がします。

生徒たちの反応はいかがでしたか?

「今日はちょっとゲームをします」というふうに始まって、いきなり知らないカラーの紙が配られるので、ちょっとワクワクする感じですね。つまらない座学じゃないぞと(笑)。
この授業を実施するのが12月なんです。期末考査が終わって、答案を返却したの後の時間を使って行っているのですが、10月のプロ野球ドラフト会議の記憶がまだ新しい時期なんです。生徒たちと同年代の18歳で億単位の契約をする選手がいますから、うらやましいって感じているわけですよね。そのタイミングで、「1億円の契約金って、税金でいくら取られるか知ってる? 税金でこんなに取られるんだよ」という話をすると「そっかー」と反応してくれます。「1年目に1億円もらっても、2年目が2000万円だったらどうなる?」と聞くと初めて、「あ、住民税払えない」ということに気づいたり。実施のタイミングとしてはピッタリかなと思っています。

ゲーム形式で稼ぎ方や暮らし方を考える。
学校の意図を超えた生徒たちの学びへ

実施前と実施した後のプログラムの印象は変わりましたか?

実を言うと、実施前までは、「高校生相手にゲームなんて、子どもっぽくて馬鹿にされるんじゃないか」という不安がありました。ところが年度末のアンケートで、「1年間の家庭科で、何が一番記憶に残っていますか?」と聞いたところ、MoneyConnection®を挙げた子が何人かいたんです。ゲーム形式が、生徒たちの印象に残るいい役割をしていたんですね。
つまり、教員が考える難易度や求めているものと、生徒が求めているものは違っていたんです。
「お金ってこうやって使われているんだっていうことが、初めてわかりました」と言われて、「そうか、生徒たちが教えてほしかった知識はこういうことだったんだ」ということに気づかされました。それで、来年もやらせていただこうということで、現在まで継続して実施しています。

具体的に、どのような点が生徒たちの印象に残るのでしょうか?

まずは「稼ぎ方・働き方カードを引いたらフリーターだったけど、そうはなりたくない」「正社員で100万円だったら、いい暮らしができそう」といったところで盛り上がっていて、なるほど、ここが記憶に残るところなのかと気づかされました。あるいは、「暮らし方カード」を引くことで、40歳になったときどうなるかを考えるようになる。「40歳、賃貸マンション、未婚、子どもなし」を引いて「これはやばい」と衝撃を受けていたり。引いたカードをみんなで見せ合うことで効果が増しているようでしたね。
また、最近では結婚しないという希望をする生徒もいるけれど、「暮らし方カード」を引いたときの感想を読むと、やっぱり昔ながらの「結婚して子どもがいる」というのを理想とする生徒も多いということがわかって、それも発見でした。
一生、実家暮らしをしたいという生徒もいるんですが、実際にそういうカードを引くことによって、「あ、やっぱり実家を出たい」という希望が初めて出てくるようなんです。とてもよく考えられたプログラムだと思います。

実施後、印象的だった生徒の感想や反応などがあれば教えてください。

「家に帰って、さっそくうちの状況を調べてみたい」と話す生徒がたくさんいました。今までスマホ代には興味があったけれど、プロバイダ契約がないとWi-Fiって使えないんだよねっていうことに改めて気づく子がいたり、家計に占める食費や交際費の高さにもびっくりしていて、「頻繁に外食をねだっていたけれど、ちょっと反省します」という感想もありました(笑)。
また、自宅から離れた大学に行くために一人暮らしをしたい生徒たちは、家賃を調べ出しますね。
例えば、北大を志望する生徒は北海道の家賃などを調べたり。「地方の大学に行ってもいいのかな?」ということを考えるようなんです。「うちの家計はどれくらい余裕があって、僕が大学に行った場合、いくら仕送りをもらえるんだろう」というところにつながっていくようで、「親と大学について話し合いたいと思います」という感想も聞かれました。

地方の大学に進学した場合などを考えて、生徒たちはお金のことを身近な問題として受け止めてくれているのですね?

そうですね。すぐに一人暮らしになる生徒もいるでしょうから、そこは一番考えてほしい部分ですね。仕送りの額でやりくりするとか、もし親が苦しければ自分で一人暮らしのお金を稼がなければいけないとか。その場合は、いくらぐらい稼げるのか、学業と両立させながらできる仕事は何だろうとか、そういうことまで考えるきっかけになると思います。

生徒たちの変化を感じるところはありましたか?

プログラムをやった後に、「プログラムを終えた今、あなたたちは何をしますか?」と質問すると、一様に「勉強をがんばって、自分の希望の大学に入ります」と書いてくるんです。勉強させるために行っている授業ではないのですが、プログラムを通して将来に目が向くきっかけになっているのでしょうね。
さらに学部選びについても、これまでとは違う視点で深く考えるようになりますね。なんとなくきれいなキャンパスで雰囲気が良くてといったことで大学を選んでいた生徒たちが、「大学を選ぶことって、実は将来を選ぶことなんだ」ということに気づくようなんです。「自分の好きな勉強だけで学部を選んでいたけれど、就職のことも含めて学部を考える必要があると思った」など、目の前の大学受験だけでなく、もう少し先まで見通すようになってくれました。
私としては、「家計」の導入として費目を理解させて、暮らしというのは、お小遣い20万円というのとは違うんだよというのがわかればいいなあ、というレベルで考えていたのですが、それ以上の部分にも気づいてくれました。想像以上に、このプログラムには生徒たちに訴えかける魅力があったんだと感じています。

プログラムの骨組みを踏襲しつつ
パワーポイントのオリジナル資料でさらに補足

初年度は出張授業の形でしたが、次年度からは先生ご自身の手でMoneyConnection®を担当されていますね。授業では先生がお1人で担当されているのですか?

非常勤講師の先生と私と2人で、それぞれクラスを受け持つので、授業自体は教師1人で行っています。あまり長くても飽きてしまうので、50分1時限くらいがちょうどいいと感じています。そこからさらに深い学びについては、そのあとの授業で足していくこともできるし、プログラムの解説中に加えることもできます。

実際に授業をされるときには、どういった点に気をつけて進行していますか?

骨組みの部分は、最初に出張授業をしていただいたものを概ね踏襲させていただいて、そこに補足やアレンジを加えています。
たとえば、働き方の違いといった点でも、フリーランスで働くということも伝えていかないといけないと思っています。親御さんがフリーで働いている家庭もあるかもしれません。フリーで働くことを否定するのではなく、いろいろな働き方があって、自分にふさわしい働き方を選んでいくんだよ、というふうに導きたいと考えています。
例えば、放射線技師の資格を持っている人が、子育て中フリーで働いている事例を話したり、弁護士の相談料について話したり。そうすると、フリーで働く場合も、資格があると強いんだということに気づいてくれます。さらに、就職ができなかったり、フリーで働く人がいたりする背景には、就職氷河期で大変だった時期など、時代の流れもあるということも伝えるようにしています。また、新卒で就いた仕事を辞めると、なかなか元の所得を得るのは難しいという日本企業にありがちなケースなどもプラスαで話しています。

教師が講師やファシリテーター役もやるのは難しいのでは? と心配する学校もあると思うのですが、その点はいかがでしたか?

初年度はファシリテーターの方に来ていただいて、その授業を見学させていただきました。やり方はわかりやすかったし、教材の使い方もすぐに理解できました。基本の骨組みは難しくないので、踏襲する分には面倒なことはなかったですね。
教材がよくできているので、配るだけである程度で形になっていきます。事前に、座席表に合わせてカードを分けておくのですが、生徒たちも手際よく配ってくれますし、わりとすんなり進められます。カードやプリントが次から次に配られるので、生徒たちは「次はなんだろう」という感じで、こちらが多少バタバタしても待ってくれます。
あとは、パワーポイントで生徒が混乱しそうなところや、しっかり押さえてほしい部分の説明を付け足しています。

先生がお作りになっているパワーポイントの資料というのはどういった内容ですか?

基本的にはあまり手を加えていません。コストにはこういうものがあるよとか、家計の用語を足しているくらいです。「自分の自由に使えるお金が可処分所得で、これは日経新聞にもよく出てくるし、絶対に覚えておいてね」といった具合に説明を補足しながら。大学の入試問題に出る用語なども押さえておきたいので、新聞記事にからめて説明することもあります。
パワーポイントの資料があれば、もう1人の先生と授業内容を統一しやすいです。

家庭科の授業全体で、このプログラムをどう活かしていきたいとお考えですか?

MoneyConnection®は「消費生活」の分野の導入に位置づけていますが、前後で学ぶ分野にも関連した要素がたくさんあります。ですから、すでに学んだことの復習をしながらプログラムを進めたり、「このあいだやったMoneyConnection®の○○だけど、実はこういうことなんだよね」というふうに、事後の授業で関連づけたりして、違った視点から応用を利かせることができます。
また、将来、海外で仕事をしようと考える生徒もいると思うので、そういうときに年金はどうなるのかといった話なども、さらっと教えておくと参考になるかもしれないと考えているところです。

飽きない、印象に残る授業を体験させ
座学とは違う、生徒の印象に残る金銭教育を

導入して、先生自身の意識が変わったことはありますか?

教えたい内容の全部を与える必要はなくて、ヒントだけでいいんだなというのを実感しました。
座学だと、あれも言いたい、これも言いたいと欲張ってしまうんです。それでだんだん生徒が飽きてきちゃう。あまり与えすぎないことも重要なんですね。
生徒たちはこのプログラムを前向きにとらえ、こちらが与えた以上のことを学び、発展させていく。知らないことを、ここから学び取る力があるんだということに気づかされました。

今後、ここはもう少し改善してほしいといった要望はありますか?

プログラムの中では、生活のコストが「20万円」程度という設定ですが、応用編としてのパターンもできたらいいと思います。たとえば、もう少し出世した時点での独身世代、新婚世代、子育て世代などの各ライフステージ別に生活コストを提示できたら、「生涯を見通した資金計画」として、さらに発展的な学習ができるのではないかと考えています。
それと、可能であれば、プログラムに即したパワーポイントがセットでダウンロードできるようになっていれば、もう少し導入時の垣根が低くなるのかなという気はします。

市立浦和高校では教材を購入していただいていますが、費用の捻出はどのように行っていますか?

最初のお試しで実施した年度は、無料で講師の方たちに来ていただきました。2年目からは、費用としてかかるのは、教材のカード代とワークシート代だけです。3年目からワークシート代だけですみます。シート教材はモノクロで印刷しようかとも思ったのですが、やはりカラーの方がスペシャル感があって生徒の印象に残るんじゃないかと思い、家庭科の教材費として毎年、予算をとって教材を購入しています。

年間の授業計画の中にMoneyConnection®を取り入れることに、なかなか踏み出せないという声もお聞きしています。全国の家庭科の教員の方々へ、メッセージをいただけますか?

家庭基礎は、全体的に単位数が絞られていて、授業数が足りないんですね。半分は実習を入れなければいけないし、そうしたキュウキュウの中に、こういったゆったりしたプログラムを入れる余裕はないと思われている先生が多いと思います。
例えば、「消費分野」を6時間で教えるのに、このプログラムに1時間とられたら困るというのは、実は私にもあります。でも導入してみて、削れるところを削っていってもなんとかなるかなという気がしています。クラスによって授業数の増減があるので、最初は余裕のあるクラスで試してみて、生徒の反応を見てみるのもいいかもしれません。
座学の方がいろいろ詰め込めるし、時間も調整しやすいと思います。でも、生徒の頭にはあまり残らないんですよね。忘れてしまう知識ではまったく意味がありません。生徒が変容するきっかけを与えたいのであれば、生徒を動かす何かを導入することが必要だと思います。

ありがとうございました。

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